『後拾遺和歌集』(『後拾遺集』)

古典への扉

 『後拾遺和歌集』(『後拾遺集』)は、第四勅撰和歌集で、白河天皇の命により藤原通俊が編纂した。全20巻。通俊の「仮名序」を付す。選歌範囲は『古今集』『後撰集』以後、村上朝から白河朝までの約130年間。主要歌人は、和泉式部・相模・赤染衛門・能因法師ら。通俊は、草稿段階の『後拾遺集』を当時の宮廷歌人の重鎮だつた源経信に見せて意見を求め、選歌の入れ替へを経て完成・奉覧したが、経信は、その後も『難後拾遺』を著して(経信の口述を俊頼が執筆した草稿といふ説などもあり)批判した。通俊は、『難後拾遺』を重く見て、さらに修訂を加へ再奉本を完成させたとされる。
 小生は、岩波書店新日本古典文学大系『後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信 校注)で読んだ。
 新日本古典文学大系『後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信 校注)は、脚注形式で、注は、大意・出典・語釈・参考事項を記す。(「序」は、語釈のみ。)大意は、ほぼ現代語訳で、原文に忠実だが、必要に応じて言葉を補つてゐる。巻末に、異本歌・「後拾遺和歌抄目録序」・解説・地名索引・人名索引・初句索引を付す。

 『後拾遺和歌集』の全注釈には、他に講談社学術文庫『後拾遺和歌集 全訳注』・風間書房の『後拾遺和歌集全釈』・和泉書院の和泉古典叢書『後拾遺和歌集』・笠間書院の笠間注釈叢刊『後拾遺和歌集新釈』・岩波文庫『後拾遺和歌集』・明治書院の和歌文学大系『後拾遺和歌集』がある。
 講談社学術文庫『後拾遺和歌集 全訳注』(藤本一恵 訳注)は、「序」は、内容を三分して見出しを設け、さらにそれらを細分して小見出しを付し、本文の後に、文意(現代語訳)・語釈・参考を記す。和歌は、詞書・和歌の後に、題意・歌意(現代語訳)・語釈・作者・参考を記す。歌意(現代語訳)は、原則的に逐語訳だが、必要に応じて( )を付して字句を補ふ。参考は、詠作動機・出典・他の歌との関係など適宜参考となることについて述べる。明治以降初の全注釈であり、文庫版としてはかなり詳細で、労作である。
 風間書房の『後拾遺和歌集全釈』藤本一恵 訳注)は、講談社学術文庫版を全面的に見直したもの。形式は、講談社学術文庫版をほぼ踏襲してゐるが、より精緻な注釈になつてゐる。

 和泉書院の和泉古典叢書『後拾遺和歌集』(川村晃生 訳注)は、「序」は、3段組で、本文を中央に掲げ、上段に語釈、下段に口訳(現代語訳)を置く。歌は、頭注形式で、注は、出典(他出文献)名・語注・大意(現代語訳)・本歌や参考歌を含む読解上の要点・構成から見た素材や内容及び趣意について記す。語注は、簡潔であり、大意(現代語訳)は、本文に忠実である。巻末に、付録として「後拾遺和歌抄目録序」・「難後拾遺」・「後拾遺抄註」・詞書人名索引・和歌初句索引を付す。
 笠間書院の笠間注釈叢刊『後拾遺和歌集新釈』(犬養廉・平野由紀子・いさら会 訳注)は、「序」は、段落に分けた本文を掲げ、段落ごとに異同・現代語訳・語句・補説を載せる。歌は、本文(詞書・和歌)の後に、異同・現代語訳・語句・作者・他文献資料(他出文献名)・詠歌事情・補説を載せる。語句等の説明は詳細である。(「いさら会」とは、お茶の水女子大学の卒業生・院生による輪読会。)付録として、「後拾遺和歌抄目録序」・作者詞書等人名索引・初句索引・四句索引を付す。
 岩波文庫『後拾遺和歌集』久保田淳・平田喜信 校注)は、上記新日本古典文学大系版を基にしてゐるが、新たに公開された冷泉家時雨亭文庫の『後拾遺集』を校合本に加へ、注を見直したもの。見開きで、右ページに原文を掲げ、左ページに2段組で注を付す。注は、大意(現代語訳)・出典・語釈・参考事項を記す。注は、文庫としては詳細だが、新日本古典文学大系版での参考事項の一部が省略されてゐる。また、地名索引も割愛されてゐる。

 明治書院の和歌文学大系『後拾遺和歌集』(近藤みゆき・松本真奈美 訳注)は、脚注形式で、注は、他出文献・大意・語釈・鑑賞を記す。大意は、ほぼ原文に忠実な現代語訳である。詞書の訳は無い。
 旧版の岩波文庫『後拾遺和歌集』(西下経一 校訂)平凡社東洋文庫『八代集2』(奥村恆哉校注)は、本文だけで注釈は無い。(東洋文庫『八代集』の注は、勅撰集・説話・歴史物語・歌学・歌論への引用の注記のみで、語釈などは無い。)

 今、『後拾遺和歌集』を読むのならば、やはり新しい注釈書で、携帯しやすく(約700ページとかなり厚いけれど)、注も比較的詳細な岩波文庫『後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信 校注)が好いと思ふ。さらに深く読み込みたいなら、風間書房の『後拾遺和歌集全釈』藤本一恵 訳注)笠間書院の笠間注釈叢刊『後拾遺和歌集新釈』(犬養廉・平野由紀子・いさら会 訳注)などを読まれたし。和泉書院の和泉古典叢書『後拾遺和歌集』(川村晃生 訳注)などで「難後拾遺」・「後拾遺抄註」を読むのも面白いだらう。
 教科書には、和歌の教材として、秀歌選といつた形で、『後拾遺和歌集』からも何首かが採られることがある。

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