上田健次『銀座「四宝堂」文房具店』

積ん読解消 読書日記

2025.06.27

 上田健次『銀座「四宝堂」文房具店』(小学館文庫)読了。
 文房具をモチーフに銀座の文房具店「四宝堂」で繰り広げられる人情話を描く短篇連作。お節介で人の好い店主が、さまざまな悩みを抱へる者に文房具を介して寄り添ふ。第18回うさぎや大賞第1位、三洋堂書店文庫アワード第2回「でら文芸」第1位を獲得とのこと。(小生、不勉強で、両賞に詳しくないが…。)人気を得てシリーズ化し、現在小学館文庫で第5巻まで刊行。(店名は、勿論、中国で文房具の中心である筆・墨・硯・紙の四つを「文房四宝」と呼ぶことに拠るのだらう。)
 文房具をモチーフにした短篇連作で評判になつたので、文房具好きの小生としては、ぜひ読まうと思つて買つたまま積ん読になつてゐた。
 退職の目的の一つが「積ん読」の解消で、とりあへずは『史記』(と今は途中で休止してゐるが『失はれた時を求めて』)を読み通したいと思つてゐるのだが、『史記』ばかり読んでゐると煮詰まつてきて(実は『史記』だけ読んでゐるわけではないけれど)、たまには軽い読み物を読みたくなる。
 第1巻でモチーフになつてゐる文房具は、万年筆(モンブラン マイスターシュテュック ル・グラン146)・システム手帳(ファイロファクス)・大学ノート(コクヨ キャンパスノート)・絵葉書・メモパッド(ロディア ナンバー12)
 小生には、馴染みのある文房具ばかりである。モンブランの146は、「偏愛文房具」の投稿で書いたが、卒業論文を書いた思ひ出の万年筆だ。ファイロファクスのシステム手帳は、現在も使つてゐる。コクヨのキャンパスノートは、学生時代に愛用してゐた。ロディアのメモパッドも、日常的に使用してゐる。(小生は、主にナンバー11だが…。)絵葉書は、子どもの頃、父が職場の慰安旅行などで日本各地を訪れると、いつも土産に買つてきてもらつてゐた。半世紀前の田舎の子どもは(少なくとも小生の場合は)、県内以外を旅行することはほとんど無かつたので(今のやうにインターネットも無いし)、父の買つてきてくれる絵葉書で日本の名所の風景を観ることができた。
 正直に言へば、会話はいささか作り物めいてゐて、話自体もリアリティが感じられないが、文房具が好きな人には、作中人物の(そして作者の)文房具に籠めた思ひに共感できるだらう。

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