中之島から日本橋へ 「国立文楽劇場」

街角の本屋までの旅

2025.01.05

 ホテルの部屋から眺めた東の空に掛かる雲が綺麗だつた。「山際」ではないけれど、清少納言の言ふ「紫だちたる雲の細く棚引きたる」とはこんな感じなのだらうか?

 今日は「初春文楽公演」の第3部を観るが、開演が午後5時半なので、それまで中之島を散策することにする。
 ホテルから御堂筋を歩いて中之島に向かふ。すぐ近くに大きな寺院がある。「真宗大谷派 難波別院(南御堂)」である。東本願寺の別院ださうだ。

 御堂筋は、大阪市の都心部を南北に縦断するメインストリートであり、いくつものオフィスビルが建ち並び、ハイブランドの直営店が軒を並べる。
 途中、横道を西に入ると「坐摩神社」がある。

 大阪ガスのビルの前には、ガス灯だらうか、瀟洒な街灯がある。

 淀屋橋を渡ると、中之島である。橋の先に立派な建物が見える。何だらうと思つたら、「日本銀行大阪支店」だつた。

 日本銀行大阪支店前には、「駅逓司大阪郵便役所跡」の碑と「郵便創業100年記念ポスト」がある。

 中之島は、堂島川と土佐堀川に挟まれた中洲で、明治から昭和初期に掛けて建てられたノスタルジックな雰囲気のビルが建ち並ぶ。大阪市役所もここにある。
 まづ「大阪府立中之島図書館」に行く。今日は休館日だつたが正面玄関等の見学はできた。円形ドームの円窓はステンドグラスになつてゐる。

 隣には「大阪市中央公会堂」がある。「大阪府立中之島図書館」「大阪市中央公会堂」とは、重要文化財に指定されてゐる。

 次に近くの「東洋陶磁美術館」に行く。これは2023年に建て替えられた近代的な建物。国宝の「油滴天目茶碗」を初め、中国・韓国・日本の陶磁器を多く展示してゐる。ただ入口近くの石銘板に掘られた施設名が判りづらいといふか、近寄らないと判読できない。

 国宝「油滴天目茶碗」の写真を掲げる。

 他にも中国・朝鮮・日本のさまざまな陶磁器の展示があつたが、19世紀朝鮮の文房具の写真を掲げておく。上の写真の右「筆筒」・中「水滴」・左「筆洗」、下の写真の右「硯」・左「絵具皿」・奥「長方箱」(右の奥の切れてゐるのは「筆洗」の一部)。

 昼食は「大阪府立中之島図書館」内のカフェ「smørrebrød KITCHEN」で「スモーブローのランチセット」を食べる。「スモーブロー」とは、北欧の伝統的な家庭料理であるオープンサンドで、西日本ではここが最初に提供した店とのこと。

 中之島を土佐堀川沿ひに歩いて行く。さまざまな彫刻作品が置かれてゐる。中にはこんなユニークなものも…。

 筑前橋の袂に近代的な建物が並んでゐる。「大阪市立科学館」「国立国際美術館」である。今日は、時間が無いので見学はしない。

 「国立国際美術館」の隣に「大阪中之島美術館」がある。こちらを見学するつもりで来た。

 今は「歌川国芳展」をやつてゐる。歌川国芳は、江戸末期の浮世絵師。武者絵「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)」で人気を博す。天保の改革により、浮世絵も役者絵や美人画が禁止になるなど弾圧を受けるが、禁令の網をかいくぐり、妖怪に託して幕府を風刺するなど、国芳の筆は止まらなかつた。さらに西洋画の技法を取り入れるなどして、浮世絵の歴史を塗り替へる斬新な作品の数々を生み出した。

 代表作の一つを掲げておく。山東京伝が書いた読本「善知安方忠義伝」の一場面である。

 2階の芝生広場には、ウルトラセブンを思はせるユニークな猫の像がある。

 カフェで一息吐いてから、「国立文楽劇場」に向かふ。「肥後橋駅」から大阪メトロ四つ橋線に乗り、「なんば駅」で千日前線に乗り換へて「日本橋駅」下車。劇場に着いたのは、午後5時過ぎで薄暗くなつてゐた。

 第3部の演目は、「本朝廿四孝」「四段目 道行似合の女夫丸景勝使鉄砲渡し十種奥庭狐火の段」。階段の吹き抜けの上に、忠臣蔵と並んで「本朝廿四孝」の布製のポスターも垂れてゐる。

 「本朝廿四孝」は、戦国時代の武将である上杉謙信と武田信玄の争ひを背景に、男女の恋や兄弟の別れなどを扱つた時代物。今日の見せ場は、謙信の娘・八重垣姫が許嫁の勝頼へ寄せる熱い思ひを描く「十種香の段」「奥庭狐火の段」。
 長尾(上杉)謙信は、武田信玄秘蔵の「法性の兜」を借りたまま返さうとせず、両家は争ひが絶えない。両家の和睦を願ひ、将軍家から謙信の娘八重垣姫と信玄の息子武田勝頼の縁組が提案される。しかし祝言の前に将軍足利義晴が暗殺され、勝頼は暗殺の濡衣を着せられ自害させられてしまふ。
 八重垣姫は勝頼の絵姿を前に十種香を焚いて回向してゐたが、父謙信に召し抱へられた花作り簑作を見て激しく恋慕する。実は自害したのは身代はりで、簑作が真の勝頼だつた。謙信は勝頼の正体を見抜き、討手を向ける。(「十種香の段」)
 勝頼へ危機を知らせたい八重垣が家宝の兜へ祈ると、神の使ひの白狐が現れ、その霊力が乗り移つた姫は、凍りついた湖を渡り、勝頼のもとへ急ぐのだつた。(「奥庭狐火の段」)。
 八重垣姫の赤から白地の衣装への早変はりや、白虎と舞ひ踊る姫の姿は、視覚的にも愉しめるものである。

 上演が終はり、ホテルへの帰り途、西洋料理店「北極星」で夕食にする。2階に通されたが、懐かしい畳の席。オムライス発祥の店とのことで、「オムライス」と「生ハムサラダ」を注文する。オムライスは、上品な薄味だつた。

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