高校入学の記念に父から贈られたのが、この「Parker」の「パーカー45」である。(厳密には違ふのだが、そのことは後で述べる。)小生の実家のあつた北関東の山間の小さな町には舶来の万年筆を売るやうな店は無く、父は、隣の市の商店街にあつた文房具店で買つたのだと思はれる。「パーカー45」は、廉価版の入門モデルだが、北関東の田舎では高級筆記具の類だつたのだと思ふ。
「パーカー45」の販売開始は1960年。小生の生まれたのとほぼ同時期である。「パーカー61」よりも後に生産された製品なので、本来なら「パーカー65」とでもなるはずだつた。しかし、それまでインクボトルから吸引してゐたのが、カートリッジインクが開発されたので、ペン軸の後ろからカートリッジを差し込むだけでよくなつた。そのさまがリボルバー拳銃「コルト45」みたいだつたので、「パーカー45」となつたのだとか。また、「パーカー45」は、ペン先の交換が容易で、当時としては画期的だつたらしい。
高校生の小生は、授業のノートを取るのはシャープペンシル(メカニカルペンシル)だつたし、まだ万年筆を日常的に使ふことはなく、年賀状や手紙を書く時に使ふくらゐだつた。ペン先はスチール製だと思はれる。首軸の裏側に「X」(極細)の表記がある。黒のインクを入れて使つてゐた。エアロフィラー(スチールとゴムのコンバーター)が付属してゐたと思ふ。キャップの裏側に「MADE IN USA」の刻印がある。イギリス移転前の製品なのだらう。Parkerの象徴の矢羽根型クリップは、現在の流線型のものと違ひ、やや角張つたレトロな感じのものである。まだキャップに穴は無い。

その後、小生は進学(といつても1年間は予備校だが)のために上京した。ある時、インクを入れるために尻軸を外さうと首軸との接続部分を廻すと、首軸が螺子の根元から折れてしまつた。そんなに乱暴に扱つたつもりはないのだが…。たまにしか使つてゐないとはいへ、父からの贈物でもあり、ショックだつた。父が知つたら悲しむだらうとも思つた。接着剤で付けてみたが、うまくいかなかつた。そこで、夏休みに帰省した時に、父が買つたと思はれる隣の市の文房具店で同じものを買ひ直した。しかし、それもしばらくすると、また同じ箇所が折れてしまつた。「パーカー45」は、インクを長く容れつぱなしにしてゐると首軸の内側が溶けてしまふといふ話もあり、小生のものの首軸も少し波打つてゐる。インクを容れたままあまり使はなかつたのがいけなかつたのだらうか? 上の写真のものは、3代目である。今は、インクは容れずに保管してゐる。(父から贈られたものは、ちよつと捜したが見付からなかつた。でも捨ててはゐないので、どこかにあるはずである。)
父は、5年前に悪性リンパ腫を患ひ死去した。特に趣味も無かつた父には、遺品とも言へるやうなものは無かつた。小生にとつて、この「パーカー45」が父の形見である。
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