思ひ出の文房具3 MONT BLANC「マイスターシュテュック146」

偏愛文房具

 大学3年か4年の頃、アルバイトで稼いだ金を貯めて、憧れだつた「MONT BLANC」「マイスターシュテュック146」(現在のモデル名は「マイスターシュテュック ル・グラン146」)を買つた。(「149」はさらに高価だつたし、手の小さな小生には「146」の方がしつくりと来た。)ペン先はOM(中太字・先端斜め)で、漢字の横画は細く、縦画は太く書ける。作家にも愛好者が多かつた。購入したのは「銀座 伊東屋」で、当時は中二階が万年筆売場だつたやうに思ふ。銀座に行くたびに何度も売場に行つては、横目でチラチラと見てゐた。当日は、何本か試し書きをさせてもらひ、あまり違ひは判らなかつた気がするが、その中の1本を購入。当時の伊東屋は、購入金額の5%分の割引チケット「メルシー券」を発行してをり、万年筆を購入して貰つたメルシー券を利用してインクを購入した。(一遍に買ふ余裕が無かつたのである。)

 ペン先が(特に漢字を書くには)かなり太いので、普段使ひではなく、手紙や年賀状の宛名を書いたり、時々試し書きをしたりては悦に入つてゐた。一番の思ひ出は、卒業論文を書くのに用ゐたことである。今では手書きで長い文章を書く気にはならないが、パソコンの無い当時は、卒業論文は、当然ながら400字詰め原稿用紙にペン書きだつた。小生は、神楽坂の「山田紙店」の原稿用紙に、この「146」で書いた。今の人たちには想像できないかもしれないが、書き損じたりすると1枚分を書き直さなくてはならず、100枚ほどの論文を仕上げるのは大変だつた。(勿論、構成のメモは作るのだが、書き間違ひは頻繁に起こる。)論文が出来上がると、厚紙に和紙を貼つて表紙・裏表紙を作り、当時の恋人が達筆だつたので題簽を筆で書いてもらひ、和綴ぢで製本して提出した。古き良き思ひ出である。

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