『更級日記』の作者は、菅原孝標女。『蜻蛉日記』の作者・藤原道綱の母は、孝標女の伯母(母の姉)に当たる。物語への憧れを抱いて、父の任国である上総国から上京する場面から書き起こし、『源氏物語』などの物語を読み耽る少女時代、親王家への出仕、結婚生活、夫の死後の仏教への傾倒などが語られる。
小生は、注釈書を変へて2度読んだ。
最初は、かなり昔に旺文社文庫『現代語訳対照 更級日記』(池田利夫 訳注)で読んだ。底本に藤原定家筆御物本を用ゐ(現行の注釈書はほぼすべてこれを底本にしてゐる)、本文を「京への旅」「身ひとりの頃」「弥陀のひかり」の三部に分け、見開きで、本文を右ページ、現代語訳を左ページに掲示し、両ページに渡つて脚注を施してゐる。脚注は詳細で、定家の傍注もかなり示されてゐる。現代語訳は、意訳を避け、一つ一つの語句が本文と対応するやうに努めてゐるが、必要に応じて補足的訳文を括弧に入れて補つてゐる。巻末に解説・年譜を付す。

さらに角川ソフィア文庫『更級日記 現代語訳付き』(原岡文子 訳注)で読んだ。脚注形式で、82の段落に分けて小見出しを付けた本文を掲げ、その後に補注・現代語訳・解説を載せ、地図・略年表・索引を付す。注は簡潔で、現代語訳は原文を尊重しながらも解りやすさを心掛けてゐる。

この他に『更級日記』の主な注釈書には、學燈文庫『更級日記』・岩波書店の日本古典文學大系『土左日記・かげろふ日記・和泉式部日記・更級日記』・岩波文庫『更級日記』・新日本古典文学大系『土佐日記・蜻蛉日記・和泉式部日記・更級日記』・講談社学術文庫『更級日記全訳注』・創英社の全対訳日本古典新書『更級日記』・新潮社の日本古典集成『更級日記』・小学館の新編日本古典文学全集『和泉式部日記・紫式部日記・更級日記・讃岐典侍日記』・笠間文庫『原文&現代語訳シリーズ 更級日記』・風間書房の『更級日記全評釈』・角川学芸出版の『更級日記全注釈』などがある。
學燈文庫『更級日記』(阿部秋生 訳注)は、作者や作品についての解説を述べた後に、84の段落に分けた本文を掲げ、段落ごとに要旨・語釈・通釈・探究(解説及び設問)を載せ、巻末に設問の解答と索引を付す。

日本古典文學大系『土左日記・かげろふ日記・和泉式部日記・更級日記』(『更級日記』の校注担当は西下經一)は、頭注形式で、注は丁寧である。頭注に収まらない注、及び定家本の勘記は補注にしてゐる。
岩波文庫『更級日記』(西下経一 校注)は、日本古典文學大系版の成果をふまへて改版したものだが、注は簡素なものになつてゐる。

講談社学術文庫『更級日記全訳注』(関根恵子 訳注)は、63の段落に分けて小見出しを付けた本文を掲げ、段落ごとに現代語訳・語釈を載せ、さらに参考として丁寧な解説を記してゐる。現代語訳は原文に即したもので、語釈は詳細である。上下2冊で、下巻末に年表・解説等を付す。最近上下2冊を1冊に纏めた『新版 更級日記全訳注』(関根恵子 訳注)が出た。(内容は同じ。)


創英社の全対訳日本古典新書『更級日記』(吉岡曠 訳注)は、見開きで、右ページに脚注付きの本文、左ページに二段組で現代語訳を掲げ、その後に補注・解説を付す。脚注は簡略だが、問題となる箇所は補注で言及してゐる。

新潮社の日本古典集成『更級日記』(秋山虔 校注)は、頭注形式で、本文の傍らにセピア色で一部現代語訳を付す。注は、丁寧である。後半に、解説・年譜・地図・系図等を付す。

新日本古典文学大系『土佐日記・蜻蛉日記・和泉式部日記・更級日記』(『更級日記』の校注担当は吉岡曠)は、脚注形式で、注は丁寧である。

小学館の新編日本古典文学全集『和泉式部日記・紫式部日記・更級日記・讃岐典侍日記』(更級日記の訳注担当は犬養廉)は、(旧)日本古典文学全集版・完訳日本の古典版を改訂し、注・現代語訳を一新してゐる。頭注・本文・現代語訳の三段組形式。内容に従つて段落に分け小見出しと通し番号を付してゐる。注は丁寧で、現代語訳は解りやすくするために言葉を補ふ傾向がやや強い。

笠間文庫(文庫といふ名でも文庫版ではない)『原文&現代語訳シリーズ 更級日記』(池田利夫 訳注)は、旺文社文庫(廃刊)版を判型を変へて刊行し直したものである。

風間書房の『更級日記全評釈』(小谷野純一 訳注)は、未見。
角川学芸出版の『更級日記全注釈』(福家俊幸 訳注)は、以前書店で見掛けて拾ひ読みしただけだが、最新の研究成果を踏まへて、注は極めて詳細である。『更級日記』を深く読み解きたい場合には、ぜひ参照されたし。ただし、現在は版元品切れ。
今、『更級日記』を原文で読むのなら、携帯しやすく一般的な注釈書としては新しい角川ソフィア文庫『更級日記 現代語訳付き』(原岡文子 訳注)がよいと思ふ。あるいは、講談社学術文庫『新版 更級日記全訳注』(関根恵子 訳注)も、初版刊行からは随分経つが、注・解説(参考)が詳細で良いと思ふ。
教科書には、冒頭の上総から京に向けて出立する場面、念願の『源氏物語』を手に入れて読む更ける場面などが、よく採られてゐる。小生は、教材研究に際しては、旺文社文庫『現代語訳対照 更級日記』(池田利夫 訳注)・講談社学術文庫『更級日記全訳注』(関根恵子 訳注)・日本古典集成『更級日記』(秋山虔 校注)を基本にし(これらは家にあるので)、日本古典文学全集(新編が出てからは新編)『和泉式部日記・紫式部日記・更級日記・讃岐典侍日記』(更級日記の訳注担当は犬養廉)も見るやうにした。
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