『古今和歌集』(『古今集』)は、最初の勅撰和歌集である。醍醐天皇の命により編纂された。撰者は、紀友則・紀貫之・凡河内躬恒・壬生忠岑の4人。(勅撰和歌集は、勅命または院宣によつて選ばれた和歌集で、勅撰和歌集に歌が選ばれるのは、歌人にとつて最高の名誉だつた。)全20巻、約1100首。紀貫之による「仮名序」と紀淑望による「真名序」を付すが、伝本によつて「真名序」を欠くものもある。主要歌人は、紀貫之・凡河内躬恒・紀友則・素性・壬生忠岑・在原業平ら。撰者の歌が多い。(『万葉集』所載の歌は採らない方針だつたが、数首混入してゐる。)四季と恋を中心とする部立は、以後の勅撰和歌集の範となつたのみならず、『源氏物語』などその後の古典文学に多大な影響を与へ、日本人の季節感の形成にも大きく与つた。
小生は、注釈書を変へて5回読んだ。(それでも『源氏物語』などを読んでゐて、注釈無しに『古今集』からの引歌に気付くのは稀である。やはり注釈書はありがたい。)
最初は、20代の頃に角川文庫の『古今和歌集』(窪田章一郎 訳注)で読んだ。脚注形式で、注は簡潔だが適切で、後部に補注として「仮名序」の現代語訳と330首余の歌について歌意の説明を載せる。「真名序」は、返り点付きの原漢文に脚注を付す。巻末に異本の歌・解説・作者略伝・作者別索引・初句四句索引を付す。解説は、詳細である。

次に、創英社の全対訳日本古典新書『古今和歌集』(片桐洋一 訳注)で読んだ。「仮名序」「真名序」は、見開きで、右ページに本文(「真名序」は訓み下し文)と脚注、左ページに2段組で口語訳を載せる。和歌は、2段組で、上段に本文と和歌の口語訳(詞書・左注の訳は省略)、下段に脚注を載せる。脚注は、丁寧である。巻末に、解説・作者名索引・和歌各句索引を付す。(和歌について初句・四句だけでなく各句の索引があるのが良い。)

笠間文庫(文庫版ではない)の原文&現代語訳シリーズ『古今和歌集』(片桐洋一 訳注)は、上記全対訳日本古典新書『古今和歌集』を判型を変へて再刊したもの。ただし、解説は、参考文献を中心に改訂してある。

また、旺文社文庫の『現代語訳対照 古今和歌集』(小町谷照彦 訳注)でも読んだ。「仮名序」「真名序」は、見開きで右ページに本文(「真名序」は原漢文の後に書き下し文)、左ページに口語訳を掲げ、脚注を付す。和歌は、2段組で、上段に本文、下段に脚注として口語訳と語釈を載せる。語釈は、スペースの関係で簡略だが、一部補注を付す。巻末に解説・参考文献・索引(歌合出典一覧・作者略伝・作者名索引・地名索引・歌語索引・初句索引)を付す。(歌語索引があるのが良い。)

ちくま学芸文庫の『古今和歌集』(小町谷照彦 訳注)は、上記、旺文社文庫の『現代語訳対照 古今和歌集』の再刊本。ただし、索引・参考文献は改訂してある。

さらに、講談社学術文庫『古今和歌集 全訳注』(久曾神昇 訳注)で読んだ。「序」では、本文(「真名序」は原漢文の後に書き下し文)を段落に分けて掲げ、その後に文意・語釈・鑑賞を載せる。和歌では、詞書・和歌を掲げ、その後に題意・歌意(口語訳)・語釈・鑑賞・作者についてを載せる。語釈は、基本的に簡潔だが、異説があるなど問題のある箇所は丁寧に記してゐる。全4巻で、4巻末に解説・上句索引・下句索引を付す。

一番最近読んだのは、角川ソフィア文庫『新版 古今和歌集 現代語訳付き』(高田祐彦 訳注)によつてである。「仮名序」「真名序」は、脚注形式で、本文(「真名序」は右ページに原漢文、左ページに書き下し文)の後に現代語訳を載せる。「歌集部分」は、見開きで、右ページに詞書・歌、左ページに注解(通釈・詞書の説明・歌句の解釈・説明など)を載せる。通釈(現代語訳)は、原文に忠実だが、必要に応じて言葉を補つたり、説明になつたりしてゐる場合もある。注解で、『古今集』以前・以後の作品との関連に触れることも多い。巻末に異本の歌・解説・作者略伝・作者別索引・初句四句索引を付す。

この他に戦後の主な注釈書には、朝日新聞社の日本古典全書『古今和歌集』・講談社の新註国文学叢書『古今和歌集』・岩波書店の日本古典文學大系『古今和歌集』・風間書房の『新釈古今和歌集』・小学館の日本古典文学全集『古今和歌集』・右文書院の『古今和歌集全評釈』・新潮社の日本古典集成『古今和歌集』・岩波文庫『古今和歌集』・講談社の『古今和歌集全評釈』・小学館の新編日本古典文学全集『古今和歌集』・岩波書店の新日本古典文学大系『古今和歌集』・明治書院の和歌文学大系『古今和歌集』などがある。
朝日新聞社の日本古典全書『古今和歌集』(西下経一 校注)。頭注形式で、注は簡素だが、解釈に中心を置き、頭注だけで古今集が読めるやうに心掛けたといふことで、全体を現代語訳する場合も部分訳や語釈のみの場合もある。
岩波書店の日本古典文學大系『古今和歌集』(佐伯梅友 校注)。初めに詳細な解説を載せ、頭注形式で、注は、歌の意味が語学的に正確に解るやうに配慮したものである。「真名序」は、見開きで、右ページに読み下し文、左ページに原文(返り点付き)を載せ、頭注を付す。巻末に校異・作者索引を載せる。
講談社の新註国文学叢書『古今和歌集』(小西甚一 校注)・風間書房の『新釈古今和歌集』(松田武夫 校注)・右文書院の『古今和歌集全評釈』(竹岡正夫 訳注)は、恥づかしながら未見。
小学館の日本古典文学全集『古今和歌集』(小沢正夫 訳注)は、3段組で、中央に本文を置き、下段に口語訳・解説、上段に注解を載せる。口語訳は、独立して意味が解るやうに、言葉を補ひ、時に語順・語法を変へてゐる。「真名序」は、中央に原文・書き下し文を置く。注解は、丁寧である。巻末に校訂付記・異本所載歌・寛平御時后宮歌合などを載せ、さらに作者略伝・系図・年表・初句索引を付す。
新潮社の日本古典集成『古今和歌集』(奥村恆哉 校注)。「仮名序」「真名序」は、頭注形式で、本文(「真名序」は訓み下し文)の傍らにセピア色で一部現代語訳を付す。(「真名序」の原漢文は、訓み下し文の後に添へる。)注は、詳細である。「和歌」は、頭注形式で、口語訳(色刷り)・釈注(作歌事情・趣向の妙味・時代背景・他作品との関連・編者の意図など)・語釈を載せる。口語訳は、原歌の表現を尊重し、一首の基本的な作意に重点を置いてゐる。巻末に解説・校訂付記・作者別索引・初句索引を付す。

岩波文庫『古今和歌集』(佐伯梅友 校注)は、日本古典文學大系『古今和歌集』を基にしたものだが、注は簡略になり、作者の伝記・索引などは省かれてゐる。ただし、和歌の切れ目などは一部改められてゐる。

講談社の『古今和歌集全評釈』(片桐洋一 訳注)は、「仮名序」「真名序」は、内容によつて分割して見出しを加へて本文を掲げ、要旨・通釈(現代語訳)・語釈・校異・鑑賞と評論(「真名序」では原漢文の後にまづ訓読)を載せる。和歌は、本文を掲げ、要旨・通釈・語釈・校異・他出・鑑賞と評論を載せる。さらに必要に応じて、注釈史・享受史の記述を付す。通釈は、原文に忠実だが、内容理解のために言葉を補ふ。語釈・鑑賞と評論は、詳細である。
講談社学術文庫の『古今和歌集全評釈』(片桐洋一 訳注)は、上記『古今和歌集全評釈』を文庫版にしたもの。

小学館の新編日本古典文学全集『古今和歌集』(小沢正夫・松田成穂 訳注)は、(旧)日本古典文学全集版を、訳注者を加へ、全体を見直したもの。同形式だが、巻末に地名地図を加へた。
岩波書店の新日本古典文学大系『古今和歌集』(小島憲之・新井栄蔵 校注)。脚注形式で、和歌については、大意・語句の注・参考事項を記す。「真名序」は、見開きで、右ページに返り点付きの原漢文、左ページに書き下し文を掲げる。付録として「新撰万葉集上(抄)」「序注」「派生歌一覧」「古今和歌集注釈書目録」を載せ、巻末に解説・地名索引・人名索引・初句索引等を付す。

明治書院の和歌文学大系『古今和歌集』(久保田淳・高野晴代・鈴木宏子・高木和子・高橋由記 訳注)は、脚注形式で、通釈(現代語訳)・語句の語釈や解説・例歌などを載せる。通釈は、原文を尊重しながら、こなれてゐる。「真名序」は、原漢文の後に書き下し文を掲げる。後部に詳細な補注を載せ、先行注釈書の解釈について、『伊勢物語』での語られ方、『源氏物語』への引用などについても述べる。巻末に、解説・出所一覧・作者一覧・詞書左注等人名一覧・地名一覧・初句索引を付す。
今、原文で『古今和歌集』を読むのなら、ちくま学芸文庫の『古今和歌集』(小町谷照彦 訳注)・講談社学術文庫『古今和歌集 全訳注』(久曾神昇 訳注)・角川ソフィア文庫『新版 古今和歌集 現代語訳付き』(高田祐彦 訳注)が、手軽で内容も充実してゐて好いと思ふ。
教科書には、和歌の教材として『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』などから秀歌が採られてゐることが多いが、小生は、自分で秀歌選を作つて教材にすることが多い。その際には、和歌の表現を理解するのに適切な歌とともに『源氏物語』など主要な古典文学を読む際に知つておいた方がよい歌を選ぶ。すると、やはり『古今和歌集』の歌が多くなる。教材研究の際には、家では創英社の全対訳日本古典新書『古今和歌集』(片桐洋一 訳注)・旺文社文庫の『現代語訳対照 古今和歌集』(小町谷照彦 訳注)・講談社学術文庫『古今和歌集 全訳注』(久曾神昇 訳注)・新潮社の日本古典集成『古今和歌集』(奥村恆哉 校注)を、職場では岩波書店の日本古典文學大系『古今和歌集』(佐伯梅友 校注)・小学館の日本古典文学全集『古今和歌集』(小沢正夫 訳注)を主に使用した。(小学館の新編日本古典文学全集『古今和歌集』(小沢正夫・松田成穂 訳注)・岩波書店の新日本古典文学大系『古今和歌集』(小島憲之・新井栄蔵 校注)が出てからは、これらも見た。)
『古今和歌集』をより深く読み込まうとするなら、『古今和歌集全評釈』(竹岡正夫 訳注)・講談社学術文庫の『古今和歌集全評釈』(片桐洋一 訳注)なども参照されたし。戦前の注釈書でも金子元臣『古今和歌集評釈』(明治書院)・窪田空穂『古今和歌集評釈』(東京堂)などは評価が高い。



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