『後撰和歌集』(『後撰集』)

古典への扉

 『後撰和歌集』(『後撰集』)は、村上天皇の命により、源順・大中臣能宣・清原元輔・坂上望城・紀時文(梨壺の五人)が編纂した。全20巻。1400首余。部立は、『古今和歌集』を踏襲しながら、離別歌と羇旅歌、賀歌と哀傷を併せ、季節・恋の比重を高めてゐる。特徴としては、公的な場面で読まれたいはゆる〝晴の歌〟が少なく、贈答歌(相聞)が多いこと(約180組)や詞書が長く物語的なものが多いことが挙げられる。主要歌人は、紀貫之・伊勢・藤原兼輔らで、撰者の歌は無い。また、序文が無いことや『古今集』所載の和歌との重出のみならず『後撰集』内での重出もあることから、古来、未定稿(草稿)だとする説がある。(ちなみに梨壺の五人は、同時に『万葉集』の訓詁も命じられた。)
 小生は、随分前に岩波書店新日本古典文学大系『後撰和歌集』(片桐洋一 校注)で読んだ。勅撰和歌集は、当時の貴族にとつて最も権威のある作品でありながら、『古今和歌集』『新古今和歌集』以外は注釈書が少なく、新日本古典文学大系から八代集すべてが刊行されると知つた時には、歓喜した。
 新日本古典文学大系『後撰和歌集』(片桐洋一 校注)は、脚注形式で、注は、現代語訳・語釈・参考となる事項などについて記す。現代語訳は、独立して歌の意味が理解できるやうにかなり言葉を補つてゐる。巻末に、付録として底本書入定家勘物一覧・底本書入行成本校異一覧・他出一覧、解説、歌枕・地名索引、作者名・詞書人名索引、初句索引を付す。

 他に『後撰和歌集』の全注釈は、管見では、笠間書院笠間注釈叢刊『後撰和歌集全釈』・明治書院和歌文学大系『後撰和歌集』和泉書院和泉古典叢書『後撰和歌集』しか無い。(部分の注釈はある。)
 笠間書院笠間注釈叢刊『後撰和歌集全釈』(木船重明 訳注)は、明治以降初の全巻注釈だが、小生は未見。(現在版元品切れ。)
 明治書院和歌文学大系『後撰和歌集』(徳原茂実 訳注)は、脚注形式で、注は、和歌・詞書・左注の現代語訳と語釈である。現代語訳は、原文に忠実だが、必要に応じて言葉を補つてゐる。その分、語釈は、簡素である。巻末に補注・解説・人名一覧・初句索引を載せる。補注では、『伊勢物語』『大和物語』中の和歌の物語本文を掲げる。
 和泉書院和泉古典叢書『後撰和歌集』(工藤重規 訳注)は、小生未見だが、和泉書院のHPによれば、頭注形式で、注は、語釈・和歌の口語訳・解釈上の留意事項について記す。語釈には和名抄・名義抄等の古辞書を多く引用してゐるやうだ。巻末に、他出文献一覧・作者詞書人名索引・和歌初句索引を付す。
 岩波文庫『後撰和歌集』(松田茂夫校訂)平凡社東洋文庫『八代集1』(奥村恆哉校注)は、本文だけで注釈は無い。(東洋文庫『八代集』の注は、勅撰集・説話・歴史物語・歌学・歌論への引用の注記のみで、語釈などは無い。)

 今、『後撰和歌集』を読むのなら、新日本古典文学大系『後撰和歌集』(片桐洋一 校注)明治書院和歌文学大系『後撰和歌集』(徳原茂実 訳注)和泉書院和泉古典叢書『後撰和歌集』(工藤重規 訳注)が入手しやすい。新日本古典文学大系版はオンデマンド出版になつてゐるが、和歌文学大系版と和泉古典叢書版は専門書の在庫が豊富な大きな書店に行けば購入できるかもしれない。(勿論、通販でも購入できる。)図書館で閲覧するのなら、やや大きな図書館に行けば新日本古典文学大系を置いてゐるところは多いと思ふ。
 教科書には、和歌の教材として、秀歌選といつた形で、『後撰和歌集』からも何首かが採られることがある。
 岩波文庫では、新日本古典文学大系を基にした注釈書として、『拾遺和歌集』『後拾遺和歌集』『金葉和歌集』『詞花和歌集』を刊行してゐる。やや古いが『古今和歌集』『千載和歌集』もある。『後撰和歌集』と『新古今和歌集』も(できれば『古今和歌集』も)新日本古典文学大系を基にした新版を刊行してもらひたい。

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