武部聡志『ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか』

積ん読解消 読書日記

2024.11.27

 武部聡志(門間雄介取材・構成)『ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか 語り継ぎたい最高の歌い手たち』(集英社新書)読了。
 武部は、自分でも語つてゐるやうに、ミュージシャン(キーボーディスト)・編曲家・音楽監督として、かまやつひろしのバックバンドを皮切りに、松任谷由実・吉田拓郎・久保田早紀・寺尾聰・松田聖子・中森明菜…誰よりも多くの歌手たちと仕事をしてきた。そんな武部が優れた歌ひ手の魅力について語つた本である。
 一人で一章を与へられてゐるのは、松任谷由実吉田拓郎。Jポップの歴史上屈指の偉大なシンガーソングライターであるが、武部との関係も深い。
 小生、音程・リズムの正確さや音域の広さや声の艶といつた点で歌の上手い歌手と言へば、井上陽水・松山千春・玉置浩二・久保田利伸・五輪真弓・森山良子・吉田美和・MISIAといつたあたりをまづ思ひ浮かべる。いづれも本当にすばらしい歌手たちである。(武部も、現在の最高の歌ひ手として玉置浩二とMISIAを挙げてゐる。)これらの歌手に比べれば、拓郎やユーミンや中島みゆきは必ずしも歌が上手いとは言へないかもしれない。しかし、彼・彼女らは唯一無二の歌ひ手であり、その歌声は聴く者の心を揺さぶる。
 多くの歌ひ手と一緒に仕事をしてきたミュージシャンとして、武部は、ユーミンや拓郎からAdoや藤井風まで、さまざまな歌手のその歌ひ手としての魅力を(時に専門的な分析も踏まへて)縦横に語る。(かういふ本であまり厳しいことも書けないのだらう、時にいささか過大評価ぢやないかと思へる部分もあるけれど…。)当事者として、1曲の歌が我々に届けられるまでの過程(ドラマ)を語ることもあり、興味深い。

 ちなみに、小生がライブ等で直に歌を聴いて最も心が揺さぶられた歌手は、山﨑ハコである。(事務所が倒産したりして一時期活動を休止してゐたこともあり、武部とはあまり接点が無かつたからだらうか、この本では取り上げられてゐないが…。)拓郎も陽水もこうせつも清志郎も世良も高橋真梨子もそのライブは感動的だつたが(特に拓郎はコンサートでしか歌はない隠れた名曲に心が震へたりもしたが)、山﨑ハコの歌声は圧倒的だつた。ウェットだが華奢な体からは想像もできないパワフルな歌唱に(本当に文字通り)身震ひした。つのだ☆ひろが「流れ酔い唄」のレコーディングでドラムを叩きながら泣いたといふエピソードも、ありうることだと思はれる。武部の言葉を借りるなら、〝情念の歌ひ手〟として最高の一人だらう。

コメント